1.インプラントにおける「アバットメント」とは?
ヒーリングアバットメントの後ろ側の言葉、アバットメントという言葉も聞き慣れない方が多いかもしれません。
インプラント治療においては、やはり人工歯であり見える部分の人工歯冠と、顎骨に埋め込む人工歯根であるインプラント体が注目されやすく、この2つは知っている方も多いでしょう。
この人工歯冠とインプラント体を連結するのが、アバットメントという部品です。
インプラントし治療を受けられた方は、ほとんどの場合、このアバットメントで人工歯冠とインプラント体をつないでいます。
1-1.アバットメントの役割
アバットメントはとても小さな部品ですが、次のような役割があります。
【人工歯冠とインプラント体をつなぐ】
先述したように、アバットメントは人工歯冠とインプラント体をつなぐ役割を持っています。
ほとんどのインプラントシステムにおいてアバットメントがなければ、インプラント体の上に人工歯冠を連結させることができません。
アバットメントとインプラント体はネジで固定されているため、しっかりと連結させられます。
また、噛み心地などを見て、アバットメントとインプラント体の固定角度を微調整することも、ネジがあるため可能です。
ただし、近年アバットメントを必要としないものも一部のメーカーが開発をしています。
インプラント体とアバットメントが一体化している、ワンピースタイプというものです。
それでも、そのようなインプラントシステムは、まだ数が少なく、万が一アバットメント部分にトラブルが発生した場合はインプラント体ごと交換しなければいけません。
そのため、まだ現時点ではアバットメントを使用するのが一般的です。
【インプラント体の角度と噛む方向を補正】
アバットメントは、単に人工歯冠とインプラント体をつなぐだけでなく、インプラント体の角度と噛む方向を調整する役割も持っています。
インプラント体とアバットメントはネジで固定されているため、少し微調整も可能です。
また、インプラント体を埋め込む際、本来ならまっすぐに垂直に埋入したいものですが、周りの歯や顎骨の厚みなどの関係で、斜めに入れるしかないケースもあります。
その際には角度のついたアバットメントを装着し、人工歯冠はまっすぐ入れられるように調節も可能です。
【トラブルの際もアバットメントの交換だけでOK】
そのほか、人工歯冠の上から強い衝撃が加わった場合、人工歯冠が破損するなどのトラブルになる場合がありますが、アバットメントがあることでインプラント体自体には衝撃が届かないというメリットもあります。
インプラント体が破損すると、顎骨から取り除く作業は大変なものです。
しかし、アバットメントがあることで、インプラント体を守ることもできます。
アバットメント自体は破損しても、交換可能です。
1-2.アバットメントの素材
アバットメントに使われるのは、チタンやジルコニアなどが多いです。
錆びにくく、強度が強いということから、これらの素材が使われます。
金属アレルギーの方にはジルコニアが使用されることが多いです。
2.ヒーリングアバットメントとは?
アバットメントとは、人工歯冠とインプラント体を繋ぐ部品のことだと分かりました。
では、ヒーリングアバットメントとはどういうものなのでしょうか。
2-1.1回法の際のみ使われる部品
ヒーリングアバットメントは、インプラント治療の手術法の1つ、1回法の際のみに使用される部品です。
1回法とは、歯茎を開く外科手術を1回のみ行うインプラントの治療法のことです。
1回だけ外科手術を行い、その際に顎骨にインプラント体を埋め込みます。
2回法の場合はインプラント体を埋め込んだ後、一旦歯茎を閉じて、感染等を防ぎながらインプラント体が骨と結合を待ち、ある程度安定してきたら、もう一度歯茎を開いて、通常のアバットメントを取り付けます。
しかし、1回法ではインプラント体を埋め込んだ後に歯茎は閉じず、そのままヒーリングアバットメントを取り付けます。
そのため、再度歯茎を切開する手術の必要がなく、1回の手術で終わります。
1回法の方が手術が1回で済むので、患者に負担がなく、良い手術法に思えますが、1回法を適用するには、感染症のリスクが低い、全身疾患がないなどのさまざまな条件があります。
ヒーリングアバットメントは、通常のアバットメントよりも背が高く、口を開けた際にはっきりと見えるのが特徴です。
2-2.ヒーリングアバットメントの役割
1回法での手術後使われるヒーリングアバットメント。
このヒーリングアバットメントの役割には、次のようなものがあります。
【インプラント体の頭部・傷口を保護する】
1回法では、インプラント体を埋め込んだ後に顎骨との結合を待つ間、インプラント体の頭は出たままになります。
また、手術後はまだ傷口が治癒していません。
そのため、インプラント体の頭部や傷口を保護する役割をヒーリングアバットメントが担っています。
【インプラント体の安定化】
インプラント体は埋め込んだ直後は、まだ顎骨と結合していないため、不安定な状態です。
グラグラとした状態では、骨と結合しにくいですが、ヒーリングアバットメントがインプラント体を安定化させ、骨との結合を促進します。
【歯肉を形成】
また、ヒーリングアバットメントは歯肉の形成を促進するという役割もあります。
手術直後は傷口が外部の刺激を受けると、過敏に反応しやすい状態ですが、その傷口をヒーリングアバットメントが保護することで傷口の治癒を早め、その周辺の歯肉の再生を促進させます。
傷口が治癒すれば、血流や細胞の新陳代謝を通常に戻すことができるので、健康的な歯肉を再生し、形成させられます。
【スペースを確保する】
インプラント治療は歯を失った部分の治療ですので、歯がない間はスペースが空いています。
そのため、両隣の歯などがそのスペースに傾いてきたり、移動したりして、歯列が乱れる場合もよくあります。
しかし、ヒーリングアバットメントを装着していることで、そのスペースに歯が傾いたり移動したりするのが防げます。
後で人工歯冠を装着する際のスペースもしっかりと確保できます。
【食べかすなどの侵入を防ぐ】
インプラント体と顎骨が結合するには、数ヶ月かかります。
その間、食事を何度も行いますが、食べかすなどが術部には溜まりやすくなります。
万が一、ヒーリングアバットメントを装着していなければ、インプラント体の中へ食べかすなどが侵入してしまうことがあります。
その侵入を防ぐ役割もあります。
2-3.ヒーリングアバットメントの装着期間
ヒーリングアバットメントは、インプラント手術でインプラント体を顎骨に埋め込んだ後、装着されます。
その後、手術部の傷口の治癒とインプラント体が顎骨にくっつくのを数ヶ月待ちます。
数ヶ月後に人工歯冠を装着できるようになる時に、ヒーリングアバットメントを取り外し、通常のアバットメントと人工歯冠を取り付けます。
2-4.ヒーリングアバットメントに使われる素材
ヒーリングアバットメントに使われる素材は、チタンやステンレススチールなどの金属素材が一般的です。
衝撃に強い上、生体適合性が高く、傷口周辺の組織の治癒を促進する効果があります。
最近ではプラスティックやセラミックなどの非金属素材のものが使われる場合もあります。
3.ヒーリングアバットメントに違和感がある時
ヒーリングアバットメントを取り付けた後、違和感がある場合やトラブルが心配になることがあるかもしれません。
ヒーリングアバットメントに生じるトラブルには、次のようなものがあります。
3-1.ヒーリングアバットメントに生じやすいトラブル
・ヒーリングアバットメントが外れた
・ヒーリングアバットメントが損傷した
・ヒーリングアバットメント周りが炎症を起こした
ヒーリングアバットメントは、なんらかの衝撃で外れたり、損傷したりすることもあります。
小さな部品なので、違和感に気づきにくいかもしれませんが、ケアの際に外れていないか、損傷していないかを確かめてみましょう。
ヒーリングアバットメント周りの歯茎に炎症が起こった場合は、ヒーリングアバットメント自体のトラブルではないかもしれませんが、インプラント手術部にトラブルが起きている可能性があります。
治療などの対処が必要です。
3-2.トラブルを感じたらすぐに主治医に相談
もし、上記のようなヒーリングアバットメントにトラブルを感じた際には、迷わず主治医に相談しましょう。
自分でどうにかしようとせず、触れずに診てもらってください。
ヒーリングアバットメントだけのトラブルであれば、調整や交換をすれば、埋め込んだインプラント体自体のトラブルを防ぐことができます。
場合によっては、インプラントの再手術になることもありますが、早めに相談し、すぐに今後の治療計画を立ててもらうと安心です。
4.ヒーリングアバットメントの役割は大きい!トラブルがあった際には迷わず相談を
ヒーリングアバットメントは、インプラント治療の手術方法の1つである、1回法の際、手術後すぐに装着される部品です。
インプラント体や傷口を守り、インプラント体と顎骨の結合を促進するなどの大切な役割があります。
そんなヒーリングアバットメントに何か違和感があったり、心配なことがあったりする場合には、すぐに主治医に相談するようにしてください。
早めにトラブルに対する対処をすれば、インプラント治療を安心して続けられるでしょう。